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東京地方裁判所 平成元年(ワ)16604号 判決

原告 株式会社 オノジュウ

右代表者代表取締役 小野十

右訴訟代理人弁護士 平井二郎

同 長井導夫

被告 常磐薬品工業株式会社

右代表者代表取締役 中井一男

右訴訟代理人弁護士 藤村睦美

主文

一  被告は、原告に対し、金二八二万円及びこれに対する平成二年一月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一二九〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、原、被告間に医薬品「ミネパラD」の継続的取引契約が締結されているところ、昭和六三年四月以降、被告が正当な理由なく一方的にミネパラDを原告に供給する債務を履行しなかったため、原告は損害を被ったとして債務不履行責任及び不法行為責任に基づき販売純利益二〇〇万円、販売不能となったことを薬局等に連絡するために要した諸経費五〇万円、不履行以後三年間に得られたであろう利益相当額の五四〇万円及び一方的な取引中止により原告の信用が失墜したことによる損害五〇〇万円、合計一二九〇万円並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求めた事案である。

これに対して、被告は、原告との右契約による取引が採算に合わないという正当な理由により、契約書中の解約申入れ条項に基づき、昭和六二年一〇月一九日、原告とのミネパラDの取引を中止する旨申入れたと主張して債務不履行及び不法行為に基づく責任を争うとともに、原告主張の損害額についても争っている。

二  争いのない事実

1  原告は、医薬品・医薬部外品等の製造・販売等を業とする株式会社であり、被告は、医薬品・医薬部外品等の製造・小分・販売等を業とする株式会社である。

2  原告と被告は、昭和五二年一月一四日、被告の製造商品であるいわゆるドリンク剤ミネパラDにつき左記要旨の記載のある契約書のとおり継続的取引契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

(一) 原告は、被告より被告製造の商品を買い受け、これを販売する。

(二) 被告は、原告に右商品の一手販売権を与えるものとし、右商品を原告以外の第三者に売渡し又は譲渡しない。

(三) 契約の有効期間は契約締結の日から満一年とし、期間満了の一か月前までに、いずれからも解約の申し出がなかった場合には、更に一か年延長し、以後もまた同様とする。

3  原告は、昭和五二年以降、被告から、右契約に基づきミネパラDを仕入れ、これを原告の取引先の薬局に販売してきたが、昭和六三年四月以降、被告はミネパラDの納入を拒否している。

三  争点

1  被告は、昭和六二年一〇月一九日、原告に対して本件契約の解約の申入れをしたか。

2  仮りに右解約申入れがあったとしても、原、被告間では双方に契約違反等の落ち度がない限り契約は更新される旨の合意が存在し、右申入れは無効か。

3  被告に債務不履行等があった場合の原告の損害額はいくらか。

第三争点に関する判断

一  争点1(解約の申入れの存否)について

1  証人植本義晧は、「昭和六二年一〇月一九日、自分は原告の竹中正夫部長(以下「竹中」という。)と会い、原告の購入するミネパラDの取引量が少ないので、その取引を中止したい旨申し入れた。同月二八日、竹中に会った際、同様の申入れをしたところ、同人は、『社長にはまだ話してないが、止めるなら仕方がない。』としぶしぶ承諾した。

同年一二月二八日、原告からミネパラDの注文があったとき、これが最終であることを確認した。

昭和六三年二月四日ころ、竹中に会った際、『原告はミネパラDの特売をするので、追加が必要になったら製造してくれ。』と頼まれたが、断った。

同年三月一五日ころ、竹中から、『特売につき協賛してくれ。』と言われ、また、ミネパラDのラベルにバーコードを入れるよう要望があった。」旨供述する。

しかしながら、右供述は以下の理由により信用できない。

(一) 《証拠省略》によれば、原告は、昭和六三年三月ころ、同年四月からのミネパラDその他の医療品等の特売を計画し、そのパンフレットを印刷し、同年四月上旬ころ、これを得意先に配付したことが認められる。

特売を発表した後、ミネパラDを得意先に販売できない事態になると問題が起きることは当然予想されることであるから、もし、竹中が被告のミネパラDの供給中止を承諾した場合は無論のこと、その申入れがあった場合でも、原告としては被告に交渉をしてその仕入れを確保しようとするはずであるが、そのような交渉をした形跡はない。

(二) また、昭和六三年三月ころ、竹中が特売の協賛及びバーコードの依頼をしたこと、右協賛とは、ミネパラDの特売のため、発注量の一ないし二割の製品を無料で原告に提供することであることは証人竹中の証言によっても認められるところ、もし、原告が既にミネパラDの特売の発注を断られていたとすると、被告との間ではむしろ、その製造の確保に交渉の重点が置かれるはずであり、この時期に協賛の交渉やラベルにバーコードを入れる依頼をするのは不自然である。

(三) 証人植本及び被告代表者本人は、「従前から、被告は原告のミネパラDの取引量が少ないとして、これを増やすよう要求し、あるいは取引の中止を求め、昭和五七年ころには書面でその中止を求めたこともあったが、原告が同意しなかったので、そのまま継続した。」というのであるから、昭和六二年一〇月ころ、最終的に被告が取引中止を決断したというなら、後の争いを避けるため、書面でその旨の通知をするはずであるが、これはなされていない。

(四) 証人竹中及び原告代表者本人は、「昭和六三年三月ころ、特売のためミネパラDを被告に発注した。そして、協賛やバーコードの件を依頼した。同年四月一五日に植本が原告方に来たとき、初めてミネパラDの供給は中止すると言われた。原告としては、得意先からミネパラDの発注が来はじめていたので、原告の一手販売でなくとも良いから製造してほしい旨頼んだが、拒否された。」旨供述しており、右は前記認定の特売計画、得意先への通知、その後の植本との交渉状況に一致し、信用のおけるものである。

2  被告代表者本人は、「昭和六二年九月にミネパラDの原告との取引中止を決定し、原告には担当者からその旨伝えさせた。」旨供述し、乙第七号証(植本の報告書)には植本の証言にそう記載があるが、いずれも前記理由により信用できない。

3  本件契約は昭和五二年一月一四日締結され、その後一年毎に更新されていること、本件契約によれば、期間満了の一か月前までに原告または被告のいずれからも解約の申出がなければ更新される旨の合意があることは当事者間に争いがない。

右によれば、本件契約は昭和六三年一月一三日期間満了となるが、当事者のいずれからも解約の申入れがなかったため更新されたことになり、原告の注文にもかかわらず、被告が同年四月からミネパラDの供給を拒否したことは、債務不履行であるから、これにより生じた損害を賠償する責任がある。

二  争点3(損害額)について

1  原告は、昭和六三年五月の時点で、ミネパラDを特売し、得意先から二〇万本の注文を受け、これを納入する契約をしていたが、被告が原告の注文を拒否したため、得べかりし販売利益二〇〇万円を失い、納入不能の各得意先への連絡などのため五〇万円を出費したという。

前者については、《証拠省略》によれば、本件ミネパラDの特売は、得意先への売買の単価は、その注文量により異なり、最高は七八円であること、一〇〇〇本の注文があれば、五〇〇本を無償で提供することにしていたこと、その場合の単価は仕入れ原価(五〇円)とほぼ同じ五二円になること、特売の場合、どれくらい利益が上がるかは、実際にやってみないと分からないことが認められ、また、得意先から二〇万本の具体的な注文があったことを認めるにたる証拠もないから、本件特売による逸失利益は確定できない。

同証言によれば、原告は、ミネパラDを特売することを被告に伝えており、これを納入できなくなったことを得意先に通知する等の費用として、五〇万円を要したことが認められる。

2  原告は、ミネパラDの取引停止による三年間の逸失利益を求めている。

しかしながら、前記のとおり、本件契約は一年毎に更新されることになっていること及び被告のドリンク剤生産工場の有する生産ロット数との関係で被告が原告との間でミネパラDを取引するのは採算上問題が生じていたこと等の事情を考慮すると、原告が請求できる逸失利益も一年間に限るべきである(原告代表者本人は、継続的取引を中止した場合、三年間の逸失利益を補償するという慣習があるというが、信用できない。)。

《証拠省略》によれば、昭和六一年及び六二年において被告から原告が購入したミネパラDは年間一二万本あまり、その仕入れ原価は一本五〇円、原告の得意先への販売価格は平均一本六一円であるから、原告は昭和六三年において少なくとも一三二万円の利益を得ていたものと認められる。

3  《証拠省略》によれば、原告はミネパラDの特売を計画し、得意先に連絡し、その注文を受けた後に被告から納入を拒否されたこと、そのため、原告は信用を失墜したことが認められ、これによる損害は一〇〇万円とするのが相当である。

三  結論

結局、被告は原告に対し、右債務不履行による損害として二八二万円及びその催告がなされた訴状送達の日の翌日(平成二年一月九日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 古田浩 細野敦)

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